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葉落花謝

その辺に座って


 美智子は、ふいにそう言うと、早苗を見つめた。
「……ええ」
「いや。ごめんなさい。やめましょう。Pretty renew 呃人あなたには関係ない話だし」
 美智子は、しきりに唇を舐《な》めていた。話すべきかどうか、迷っているようにも見える。
「先輩。もしよかったら、話していただけませんか?」
「『先輩』は、やめなさいっていうのに」
 美智子はそう言って、早苗を睨《にら》んだが、表情は少し和らいでいた。
「でも……そうね。あなたの意見も、聞いてみたいし。どこか、」
 早苗は、一人掛けのソファを美智子の方に向きを変えて、腰かけた。美智子は、眼鏡を折り畳んで机の上に置くと、天井を見上げる。
「自殺したのはね、二十五歳の男の子。成人はしていても、まだ、精神的には未熟で、子供のままなのよ。一応、家業を手伝ってはいたんだけど、きちんとした仕事を任されていたわけじゃないし、将来、跡を継ぐという気もなかったみたい。まあ、実家でアルバイトをしていたっていう程度の意識ね」
「家業っていうのは、何なんですか?」
「それがね……メッキ工場なの。江戸川区にある、畦上鍍金《あぜがみときん》工業っていうんだけど。あ。名前はまずかったかな。亡くなった子は、四、五歳のころ、そこで事故に遭ってるのよ。メッキ工場っていうのは、私もよく知らなかったんだけど、危険な薬品をたくさん使ってるのね。その子は、ふだんは工場に入るのを止められてたんだけど、誰も見ていないときに、たまたま入っちゃったの。そして、薬品の入った容器をひっくり返して、顔に大|火傷《やけど》を負ったということでね」
「じゃあ、今でも、その痕《あと》が残ってたんですか?」
 美智子は、首を振った。
「いいえ。今は、皮膚移植や副腎皮質ホルモンによる治療技術が進んでるから、言われなければわからない程度にまで、きれいに治ってたのよ。私が見たのは、写真だけだけど。ところが、本人は、そのことをひどく気にしていたのね。自分の容貌《ようぼう》が、他人に不快感を与えるんじゃないかって、悩んでたみたい」
「醜形恐怖ですね」
「今の若い世代には、非常に多いらしいわね。ただ、Pretty renew 傳銷この子の場合には、一応、それにも理由があったのよ。病院へ担ぎ込まれて、応急手当を受けた後、知らせを受けた母親が飛んできたのね。子供は、母親の顔を見て、抱きつこうとした。ところが、この子の顔がひどく爛《ただ》れていたために、母親の方がたじろいでしまったらしいの。母親は、それが、心の傷になって、醜形コンプレックスを引き起こす原因になったんじゃないかって、悔やんでるらしいわ」
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